4日目:"脱出"とスピッツ―『手鞠』
こんにちは、またお会い出来て嬉しいです。
初めましての方もこんにちは。初めまして、さめをと申します。
この『鮫日記』は、日本のロックバンドの「スピッツ」が好きなだけの普通の女子高生の私が、徒然なるままに時々絵も挟みながら駄文を自分のペースで連ねていく…といった趣旨のブログです。「日記」と名乗っているのですが、毎日投稿を目指しているものではなく、書きたいときに書いて、自分のペースで投稿しています。
周りの人より少しだけ日本語が好きな、スピッツオタクが綴っているだけです。歌詞の考察・解釈を中心にするブログではありません。日本語や日本文学を研究してる身(日本文学・文化の比較研究を行うゼミに所属しています)として、「ここがすごいんだよ!」「ここの表現が好き!」といったものをひたすらに書き綴る…といったものです。書き綴っていく過程で考察・解釈が出てしまうところはあるとは思いますが、その目的ではないので考察・解釈が読みたい方は別のブログへ飛ばれることをオススメします!
他人の自己語り、妄想、考察、、、あたりが苦手な方はここでブラウザバックすることをオススメします。
今回は――『手鞠』
『手鞠』は、2023年5月17日に発売されました、17thアルバム『ひみつスタジオ』に収録されています。
その名の響きと、主に少女の遊び道具だったことから可愛らしい印象を受けますよね。『手鞠』の草野さん、珍しく「可愛いね」とか「好きだよ」とか、直接的な表現を使っています。いつも遠回しの、間接的な表現なのに…急に…こう、直接的だと…ちょっとドキドキしちゃうだろ〜〜!!?!?…偶にくる直接的なとこ!!!好きです。大好きです。
そんないつもよりも直接的に愛を伝えてる『手鞠』ですが、間接的な日本語大好き人間の私が好きなところは、やはり、
常識を保つ細いロープで 身体のあちこち傷ついて
感動の空気から逃れた日 群れに馴染めないと悟った
誰のことももう愛せないとか 決めつけていたのかも
その姿真似るよ
ここが好きです!!!
そもそも手鞠(てまり)とは日本の伝統的な手芸品のひとつです。丸めた綿などを芯にして、その芯の上に「色糸」っていう細い糸でグルグルに巻き付けているんですよ。糸を巻き付けているだけなのに、繊細な模様が描けるのすごい技術ですよね。それに、カラフルでとても可愛いですよね。この模様のめでたさから飾り物としても使われていました。
まぁ、物体としての手鞠については一旦置いといて、この、芯をグルグルに巻き付けている「色糸」が「常識を保つ細いロープ」で、「芯」が自分自身なんじゃ…って考えたらですよ、…「ロープ」で巻きつけられた身体。たとえ、巻きつけられていても暴れなければ身体の"あちこち"に傷はつかないわけです。ってことは、この主人公は暴れて、抵抗したわけですよね。何のために?…それは、「常識を保つロープ」から解かれるためではないでしょうか。その"ロープ"から解かれて、「感動の空気」から"逃れる"ため……この、ロープ=縛るもの=逃れる(解放)の繋がり…最高か???私はマサムネの連想ゲームが好きだって言ってるデショ!?!!?それに、「決めつける」も「思考に縛られる」とか「思考に囚われる」とか、"縄"としてのイメージもありますよね。イメージの連鎖…最高です(泣)
そして次に、歌詞が一つ前に戻ってしまうんですけども、
自分を探す旅の帰りに 独りが苦手と気づいて
手に入るはずだった未来より 素朴な今にありついた
見栄張ってた頃の魂なら 近づけなかったかも
この指を伸ばすよ
…っていうこの部分なんですけど。
「自分を探す旅の帰り」って、「帰り」って良いですよね。「途中」じゃないんですよ、これ。「自分探しの旅」って探し終わったらゴール!…って勝手に思っていたんですけど、たしかに旅行は家に帰るまでが旅行とか言いますもんね…自分探し終わったはずの後の帰りなんですよ!?いや〜〜センスの塊だな……熱涙すぎる。
ちょっと、ここで「自分探し」の辞書的な意味を確認させて頂きたいんですけども…「自分探し」は、「それまでの自分の生き方、居場所を脱出して新しい自分の生き方、居場所を求めること(【出典】小学館/デジタル大辞泉)」という意味です。脱出です!そう、脱出なんです!!!んで、ですね、この歌詞の後に来るのが、先程語った「常識を保つロープで〜」のところなんですよ。"開放"の連鎖なの分かりますか!?1つのテーマが並んでるの好き…いや、大好きです。
"解放"や"脱出"要素で言うと、
定められたストーリーにも 外側があるのかも
悪い夢溶かすよ
もそうだと思います。そう、この「外側」という表現です。「溶か」して出ていく…的な。そして、「外側」に加えて、「溶かす」の表現から、"繭(まゆ)"をイメージ出来ませんか?…私はそれを連想したんですけども、どうなんだろう笑。
繭も「手鞠」のように、糸で、蚕が吐き出した糸(絹糸)でグルグル巻きですよね。繭は自分を守るためのものです。そして、蚕が成虫になって外に出る時、その繭を、糸を溶かして外に出るんですよ!溶かしてしまうと一本の糸にならなくなってしまうから、人間はその前に繭ごと茹でて糸にしちゃうんですけどね。…この、茹でられて大人(成虫)になれないまま死んでしまう蚕ちゃんたち…「定められたストーリー」って感じありませんか!?…糸にするために(死ぬために)育てられてますからね……もう決まってしまっている"運命"ってわけですよ。それに、茹でられてしまうのも、蚕の目線に立てば確実に「悪い夢」ですし。手鞠は芯に糸が巻き付けてありますが、繭は蚕に巻き付くというか囲うように巻いてあるので、それらを図に描いてみたら一発で分かると思うんですけど両者とも同じ図になります。中心部分と、外を隔てている殻っていう…。
まぁ、あの、何が言いたいかっていうと、『手鞠』=中心部分が糸でグルグル巻き付けられている=繭=「溶かす」っていう…私が何より愛して止まない「草野正宗の連想ゲーム」が楽しめるぞ!!ってことです。最高。
最後に、最初の方で「直接的だ」と言ったサビの、
可愛いね手鞠 新しい世界
弾むように踊る 君を見てる
可笑しいね手鞠 変わりそうな願い
自由気ままに舞う 君を見てる
可愛いね手鞠 新しい世界
弾むように踊る 君を見てる
好きだよ手鞠 清らかなせせらぎ
バレバレの嘘に笑う 君を見てる
可愛いね手鞠 新しい世界
弾むように踊る 君を見てる
これらなんですけども、韻の踏み方とっっっても良いですよね。「手鞠(temari)」と「世界(sekai)」と「願い(negai)」と「せせらぎ(se-seragi)」の"eai"の三重韻…聴いていてめちゃくちゃ気持ちいいですよね。こう、普段の草野さんの詞って、言葉のイメージの繋がり重視な感じで、そこまで押韻目立つタイプの歌詞じゃないんですよ…あ、いや、無いわけじゃ、ゼロっていうわけじゃないんですけどね、ちゃんとありますからね、なんか…これは、めちゃくちゃな主観かもしれないんですけど、草野さんの作る歌詞はそこまで押韻を強調してこないなぁと思って。押韻が目立つタイプの歌詞作られるなぁと私が思った方は…米津玄師さんとかですかね。元々ボカロで作詞・作曲やっていた人だからですかね〜…韻の踏み方がすごく印象的だなぁって思うんですよね。彼の言葉の使い方も私はすごく好きです。CDは、「良いな!」って思った人しか基本的に買わないんですけどね。ほら、今は普通にYouTubeとかで聴けるじゃないですか、だけど、米津さんは私が珍しくCDを買っているアーティストの一人なんですよ〜。
「押韻」は、一定のリズムを作り、音の響きの心地よさみたいなものを出すための修辞法なんですね。手鞠がポンポン跳ねている様子って、やっぱりリズミカルじゃないですか。一定な感じで。だから、ここのこの押韻はすごく心地よいんだと思います。違和感がないから。「違和感」は人間の注意を引くので(※この「違和感」の効果についての詳しい話は前回の 3日目:わたしとスピッツ―『オバケのロックバンド』 - 鮫日記 で語ってるので省略します)、時にそれがとても良い効果を発揮する場合もあるんですけどね。でも、今回は、この"物"としての手鞠が作り出すリズムのイメージと「押韻」という修辞法を用いたこの歌詞からのイメージを合致させることでよりリズミカルさを感じる効果を生んでいるんだと思います。
今回は若干短めでしたが、このあたりでいかがでしょうか。私の、こんなただのオタク語りで、何か新しい発見なり楽しさなりを見つけて頂けたなら本望です。今回も楽しく草野さんが紡ぐ言葉たちの「ここが大好きポイント」をだらだら綴ったわけですけども…笑
ついでに日本語の魅力にも気付いて頂けたら最高に嬉しいです!
「この曲、日本語オタク的にどう思っているのか知りたい!」みたいなリクエストや簡単な感想でも長文の感想でも…あればコメントして頂くかお題箱にでも入れて頂けたらとっっっっても嬉しいです。
【お題箱】 http://odaibako.net/u/same_____29
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました!
それではまたどこかで巡り会えたら。 さめを